実験マネジメント

今回は、お客様の声を、開発に活かす重要なプロセスである実験マネジメント業務についてのインタビューです。NMKV開発企画グループ 実験マネジメントチームの柴原哲保(三菱自動車出身)と小山正典(日産自動車出身)から話を聞きました。

▲写真左から/柴原、小山

市場調査から始まる実験マネジメントの業務

- 「自動車の実験」と聞くと空力実験や耐久性実験などを思い浮かべます。実験マネジメントとはどのような仕事なのでしょうか?

柴原:"実験マネジメント"、確かに聞き慣れない言葉ですね。業務としては「市場からの要望に基づく目標設定」と「実験を通しての品質確認と進捗把握」になります。市場調査などを通じて開発の目標になる品質基準を設定し、その基準を満たすように実験を通して管理する業務になります。商品企画から開発までを担当するNMKVのいわば「入口から出口までを担う仕事」といえるかもしれませんね。

- 「実験マネジメント」の業務で市場調査をするんですか?

小山:実験というのは求める品質基準通りに開発ができているかどうかを確認する業務です。そのためには、明確な基準を策定する必要があります。基準作りのためには、作り手の意向だけではなく、クルマを使ってくださるお客様が具体的にどのような要望をお持ちなのか、それらを理解することが非常に重要になります。その方策の一つとして、私たちは市場調査を行います。調査対象は販売会社や私たちのお客様はもちろん、他社のクルマのオーナー様も含みます。実際に協力してくださる方のご自宅に足を運んで、実車を前にしたり、あるいは同乗したりしながら調査をすることもあります。

- 市場調査というと商品企画を思い浮かべます。

小山:そうですね、実際に社内でも「どうして実験の人が市場調査に行くの?」とよくいわれます(笑)。商品企画の市場調査は、将来モデルのフォーカスターゲットを設定して、ニーズを深堀りし、クルマのコンセプトや売りの部分を創出するのが目的であるのに対し、私たちの調査は、市場要望から次期型モデルが満たすべき様々な基本要件を抽出し、個々の実験で判断する際の具体的な目標設定や走行条件を導き出すことを目的とした調査と言えます。

実験マネジメントの業務プロセス

- 開発の指標作りの市場調査というわけですね。実験マネジメントのプロセスを教えていただけますか。

小山:市場調査では、全国各地でグループインタビューを行い、そのうちの4割近くの方のご自宅も実際に訪問し、インタビューで得た内容を確認しました。その結果を踏まえて、「次のクルマはどうあるべきか」を表現する具体的な基準や数値の策定につなげます。たとえば荷室を例にとると、市場調査では、現在の所有車ではどのような荷物が入ったか、入らなかったか、また、何を積んだらどこに傷がついたとか、これはどうしても積めるようにしたいなど、荷室に対する様々な要望や指摘が出されます。その結果に別の視点の要素も加味して、理想の荷室のサイズなどを数値の指標として定義します。それらの指標をまとめた新しいクルマの品質基準書を設計・開発担当に説明し、開発業務に活かしてもらうわけです。明確な指標が可視化されますから、両親会社を含めた関係部署間で共有化、標準化ができ、開発の際にはそれをクリアすることを目標にしてもらいます。

柴原:品質のチェックは三菱自動車の各分野の実験担当が行いますので、NMKVの実験マネジメントはその進捗を管理することになります。チェックシートでは、たとえば100項目の確認事項のうちいくつをいつクリアしたかなども明確になりますし、それぞれの進捗状況もわかりますので、経験を積んでいけば、開発と実験のプロセスを合理化するにも役立つはずです。

- 品質基準の策定は重要な作業なんですね。

柴原:いろいろなお客様の声を聞いたので、一つにまとめあげるのは大変です。特にちょっとした不満や、気になることを評価ポイントに落とし込んでいくのは難しいですね。「カスタマイズできますから...」といっても、はじめからかゆい所に手が届くようにしておかないとお客様は離れていってしまうので、その辺りのバランスには気を遣います。

小山:今年度の市場調査を終えて、三菱実験部の方々と精力的に基準の策定に取りかかっております。

軽自動車へのお客様の期待とこれからの取り組み

- では市場調査の生々しいお話が伺えそうですね(笑)。

小山:実は私たちは二人とも軽自動車の実験マネジメントを担当するのはNMKVでの業務が初めてなんです。NMKVで軽自動車と向き合うまでは、なんとなく軽自動車のお客様やお客様が求められていることに固定的なイメージがあったのですが、実際にはそれとは大きく違っている場合があることを、市場調査を行うことであらためて知ることができました。

- 具体的に教えていただけますか?

小山:お客様は、軽自動車だからこれでいいとか、軽自動車ならこうあって欲しいというのではなく、登録車を含めてクルマとして同じ視点で評価され始めている、という点が一番のポイントです。たとえば、これまで大型セダンに乗られていた方が、子供たちが成人して家を離れたのを機に軽自動車に乗り換えるといった需要があることを理解はしていました。しかし、このようなお客様は、軽自動車だからといって求める基準に妥協されることはありません。例えば、「買い物には便利だけど、走りはもっと欲しいね」といったような意見が出ます。軽自動車だから走りは多少我慢しなければいけないと、とはならないんですね。

柴原:軽自動車を代々乗り換えているお客様には女性も多いのですが、こうした方たちの要望も興味深いです。
例えば、スライドドア仕様のスーパーハイトワゴンのオーナーの場合、私たちは、開口部の大きなリアドアが荷物の積み下ろしには便利だろうと考えます。ところが実際には、リアに回り込まないで、スライドドアからどんどん荷物を入れられるというケースが非常に多いのです。また、カップホルダーに対する一番の要望は、様々なサイズのカップが入ることだと思っていましたが、それよりもむしろ「カップが動かず、しっかり固定されている」ということへの要望の方が大きいなど、我々の想定とは違う新たな発見も多くありました。

▲インタビュー風景(イメージ)

小山:若い方に軽自動車へのマイナスイメージがまったくないというのも面白かったですね。黄色いナンバーも気にならないそうです。だからと言って、こだわりがないのではなく、軽自動車も登録車も含めて同じ検討対象に入っていると言うことです。ですから、軽自動車で何を買おうかなではなく、買おうと思ったら一番欲しいのが軽自動車だった、という感覚です。つまり、コンパクトカー、ミニバン、セダン、スポーツカーなどのジャンルのひとつとして「軽自動車」があるのではなく、軽自動車の枠の中でこれらのジャンルを網羅する時代に入っているのではないかと思います。かつてのように「軽自動車だからしかたがない」というのは通用しなくなってきているのを強く感じます。

- なるほど、これからもNMKVが担う世界は広がりそうですね。それでは、最後にこれからの目標を教えてください。

柴原:先ほど申し上げたとおり、今はお客様の声を指標に落とし込んでいる段階です。それを完成させ、実際の開発車種の図面に落とし込んでいくフェーズが一番肝心ですね。一度図面ができてしまうとなかなか変えられないので、慎重且つ迅速に作業を進めたいと思っています。

小山:私たち実験マネジメントの取り組みは、実験現場が高いモチベーションを持って業務を遂行することで成り立ちます。ですから、軽自動車の新たなニーズへの対応はもちろん、この取り組みの効果や標準化への理解を得ることが重要です。そのために、関係者を一同に集めて市場調査報告会を行うなど、日産と三菱という異なるカルチャーで育ったスタッフが、一丸となって共通の目標に取り組み、達成する喜びを分かち合えるような試みも積極的に行いたいと思っています。

柴原:軽自動車への期待が日々高まっていることを実感しています。実験マネジメントという業務は、日産自動車、三菱自動車における実験・評価手法などを融合させたNMKV独自の新しい手法です。これからも、『いいとこ取り』の精神で、よりお客様に信頼頂き満足頂ける商品を開発し、NMKVとしての価値を一層高めていきたいと思っています。

- 本日はありがとうございました。

2015年3月インタビューより ※掲載の所属、役職はインタビュー当時のものです。